ヒトノロウイルスのテラヘルツ水による不活化効果試験

東京大学農学生命科学研究科

獣医学専攻感染制御学研究室

 【背景・目的】

テラヘルツ水は、様々な細菌、真菌、ウイルスに対して不活化作用を発揮することが示されており、特に、強アルカリのものが最も効果が高いと考えられている。

しかし、ノロウイルスに対する不活化効果は不明である。ヒトノロウイルス(HuNV)は、未だ細胞培養系が確立されていないため、これまで我々は、代替ウイルスとして、細胞培養が可能なウイルスの中でHuNVに最も近縁なウイルスであるマウスノロウイルス(MNV)を用いたテラヘルツ水の不活化効果を見てきた。その結果、アルカリ性テラヘルツ水はMNVの不活化に有効であり、その効果は、ウイルス粒子と接触後、速やかに発揮されることが示唆された。MNVでの試験はウイルスの生物活性を見ることができる点で必須な試験であるが、代替ウイルスとしての限界がある。最終的にはHuNVを用いた検証試験が必要である。そこで本研究では、Propidium monoazide (PMA)を併用した定量PCR法によって活性ウイルスを定量する手法を用いて、テラヘルツ水の不活化効果を評価する。

【結果・考察】

入手した糞便サンプル中のHuNVの定量を行った。既知の濃度のHuNV cDNAを用いてリアルタイムPCRを行い、検量線を作成した(図1)。ヒトに感染するノロウイルスは遺伝子配列の相違からGⅠとGⅡという2つのジェノグループに分かれるため、それらの2つについて検量線を作成した(図1B, D)。検量線を利用して、各サンプル中のHuNVを定量した(表1)。

次に各サンプルに対するテラヘルツ水の不活化効果を評価した。No. 2は含有ウイルス量が少かったため除外した。アルカリ性テラヘルツ水を添加した群と改質水を添加した群では、HuNV量の有意な減少が認められ(図2)、ほとんどのHuNVは不活化されたと推測される。アルカリ性テラヘルツ水は活性ノロウイルスが平均4/1,000に減少、改質水は平均3/1,000に減少した。メゾスコピック構造を持つカルシウムを除去した改質水でもアルカリ性テラヘルツ水と同程度の不活化効果が見られたため、pHの影響による不活化効果を考え、アルカリ性に調製したリン酸緩衝液(pH12)による不活化効果も測定した(図2pH control)。アルカリ性リン酸緩衝液はどのサンプルに対しても不活化効果を示さなかった。これらの結果からアルカリ性テラヘルツ水の不活化効果はpHではなく含有成分によるものだと推測された。

酸性テラヘルツ水と中性テラヘルツ水は陰性コントロールと比較して有意な違いは認められなかった(図2)。

一般的な消毒液である次亜塩素酸ナトリウム(1000ppm)はNo. 5に対しては不活化効果が認められたが、他のサンプルでは不活化効果を示さなかった。また、70%エタノールは全てのサンプルに対して効果を認めなかった。

一般的に使用される消毒薬である次亜塩素酸ナトリウムはサンプルごとに異なる不活化効果を示した。しかしながら、アルカリ性テラヘルツ水は全てのサンプルに高い不活化効果を示した。メゾスコピック構造を持たない改質水でもアルカリ性テラヘルツ水と同程度の不活化効果が認められたが、アルカリ性リン酸緩衝液では不活化効果は認められなかった。この結果より、アルカリ性テラヘルツ水の不活化効果はカルシウム以外のテラヘルツ水含有成分による不活化効果が推測された。

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